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大阪高等裁判所 昭和30年(ラ)19号 決定

申立人 中野一夫(仮名)

相手方 (抗告人)中野ユミ(仮名)

事件本人 中野光雄(仮名)

主文

審判を取消す。

申立人中野一夫からの相手方中野ユミの事件本人中野光雄に対する親権喪失の申立を棄却する。

理由

戸籍謄本並びに除籍抄本によると事件本人中野光雄は相手方中野ユミとその夫中野太郎との間に昭和十四年十二月○日出生し中野太郎は昭和十八年七月○日戦死し現在相手方中野ユミが相手方中野光雄の親権者であること及び申立人中野一夫が亡中野太郎の実弟であることが認められる相手方中野ユミ田辺一松河田三郎に対する各審問調書によると相手方中野ユミが亡夫中野太郎の出征中他の男性と情を通じたことが認められ相手方中野ユミの右所為は親権者として著しき不行跡に当ること勿論であるが右各審問調書によれば相手方中野ユミは間もなく男性との関係を絶ち爾来同様の不行跡を繰返すことなくその性格心情が遷善向上していることが認められるから既に過去の事実に属する前示不行跡を以て親権喪失の事由となすことができない次に中野イシ中野正貞事件本人中野光雄に対する各審問調書によると相手方中野ユミは前示不行跡が婚家先に知れてから今日まで相当久しき間事件本人中野光雄を自ら監護教育していないことが認められるからこの事実の外形だけから見るといかにも相手方中野ユミは事件本人中野光雄に対し親権者としてなすべき監護教育を怠つているような印象を与えるのであるが相手方中野ユミ田辺一松佐竹次郎に対する各審問調書並びに当審における相手方中野ユミの審訊の結果によると相手方中野ユミはその不行跡が婚家先に知れたので一時は髮を切り懺悔しようと決心したのであるが婚家先に強いられて事件本人中野光雄を婚家先に残し郷里を去つて現住所である宗教家の佐竹次郎方に身を寄せ謹慎中であつて事件本人中野光雄を思う情に変りなく自らこれを監護教育したい希望を有しこれを実現したいと欲しているのであるが婚家先において相手方中野ユミの不行跡に対する勘気が未だ解けない故か事実上相手方中野ユミを婚家先に寄せつけず事件本人中野光雄の監護教育を相手方中野ユミに委ねることを欲しないため相手方中野ユミにとつては心ならずも事件本人中野光雄の監護教育を怠つているように見られる恐れのある事態を生ずるに至つたものでむしろ相手方中野ユミが事件本人中野光雄に対する親権の行使を怠つているのではなく婚家先において右親権の行使を妨げているものというべく相手方中野ユミは亡夫中野太郎の戦死により遺家族に下附せられる金員中事件本人中野光雄の分は銀行の定期預金となし将来自ら同人を監護教育すべきときに備えその余は全部婚家先に送金し少しも私していないことが認められる他に右認定を左右する証左は存しない以上の事実関係に基き相手方中野ユミにおいて事件本人中野光雄に対する親権を濫用しているとは認められないそうすると相手方中野ユミは事件本人中野光雄に対する親権を濫用していると認めて申立人中野一夫の本件申立を容れた審判は不当であるからこれを取消し申立人中野一夫の本件申立を棄却すべく主文のように決定する。

(裁判長判事 松村寿伝夫 判事 藤田弥太郎 判事 小野田常太郎)

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